OSKにあって宝塚に無いもの:成熟した娘役

すみれ咲く国へようこそ。まどか:れなです。11月25日に発表された宝塚歌劇団・花組の桜乃彩音さん退団情報に接して、ようやく本当にスターとして成長の証を示し始めた段階での幕引きに、このまま在団を続ければ観られたに違いない名舞台を想い描いて、悔しさを覚えた演劇ファンは少なくなかったと信じています。

花組娘役のトップとしての在任期間は、退団する時点で4年を超える事になり、確かに「長い」と言われても不思議は無い時間を積み重ねてきました。ヒロインを固定して演目を準備するのが宝塚ですから、公演内容の硬直化に配慮する微妙な判断が求められるとは思います。しかし自信を持って臨んだ際に舞台上で発揮される力強さや説得力が、最近の公演ほど著しい伸びを見せていた点を考えると、やはり私には残念な退団なのです。

彩音さんとのお別れは既に決まってしまった事柄ですが、目覚しい進歩の過程にある娘役さんの中途半端な退団を避けるために、これから何が可能か検討してみましょう。先に書いた通り、長期間に亘ってトップが固定されているのは、その組の公演に望ましくない影響を及ぼす不安を高めます。それなら主演の立場を一定期間務めた後に、少し退いた役割を担って在団する選択肢があれば良いのではないでしょうか。或いは、娘役さんのトップ就任を従来に比べて遅らせて、より経験を積んでからヒロインを演じてもらうのも有効だと思います。

ここでOSK日本歌劇団の例を挙げて比べてみましょう。現在の主力を担うのは

男役
 桜花昇ぼる(おうか・のぼる 1993年)
 高世麻央(たかせ・まお 1996年)
 桐生麻耶(きりゅう・あさや 1997年)

娘役
 朝香櫻子(あさか・さくらこ 1995年)
 牧名ことり(まきな・ことり 2001年)
 折原有佐(おりはら・ありさ 1998年)

以上の6名(数字は初舞台年)となっています。実年齢を別にして、男役さんの方は宝塚と大差ありませんね。トップスターの桜花さんは1993年に正式入団なら雪組の水さんと同じですし、2・3番目に位置する男役さんが96年・97年なのは花組と一緒です。でも娘役に目を移すと、事情は全く違ってしまいます。宝塚5組(月組は年末に就任予定)の中で、トップ最古参の桜乃彩音さんでも2002年デビューであり、最も初舞台が新しい野々すみ花さん(宙組)は2005年です。それぞれの後継は前後の世代か、更に若い娘役さんになりますから、OSKで中核を形成する皆さんとの差は驚くほど大きいですね。

OSKは長く在団してからトップになる傾向が強いらしくて、桜花さんの前任で私が未だ興味を持っていなかった頃に男役の主演者だった大貴誠(だいき・まこと)さんは1986年の初舞台でした。退団が2007年4月ですから、20年以上も活躍していた事になります。そして大貴さんの相手役を務めたのが若木志帆(わかき・しほ)さんでした。宝塚しか知らない方は引っくり返って下さい。若木さんの入団は1989年だったのです。デビューから19年目、宝塚流の表記なら研19でヒロイン役を演じていた訳ですね。

もちろん退団後の活動を考えれば、20代の内に歌劇を去る方が有利なのかも知れません。特に大勢のファンが付いて来てくれる男役のトップさんとは違って、年齢高めの新人にしかならない娘役出身者にとっては、1年でも早く自分なりの地位まで昇って、女の子を演じられる間に転進を図るのが賢明な判断だと言う人もいると思います。それに対して、あくまで歌劇の舞台上に充実した娘役像を描き出す事を優先するのであれば、OSKの娘役さんに課せられた待たなくてはいけない時間の長さが、私には大切な成熟期間だと感じられるのです。それでは次回も、すみれ咲く国でお待ちしています。